溶融塩浴流動粒子カソードプロセスによるCO2からの機能性炭素材料の生成と形態制御

夏井 俊悟
(北海道大学 大学院工学研究院 助教)

2017年1月9日月曜日

ミステリアスな金属の霧?

 新年明けましておめでとうございます。北海道大学の夏井俊悟です。

 9月17日に開催された、第281回やさしい科学技術セミナーが無事(?)終了してから3ヶ月以上が経ちました。科学セミナー形式とは初めての経験で、その役目を十分果たせたか不安でありますが、小倉様、中原様、母校の皆様の温かいご支援を受け、とても良い経験をさせていただいたと思っております。改めて御礼申し上げます。

 ここでは、少しですが後日談として、十分にお伝えできなかった”高温融体”の魅力を書いてみます。

 セミナーの内容は、この3年間取り組んでいるテーマ”高温融体界面の流れ”について、その魅力を紹介できたらという思いから策定したものでした。自然現象のなかにある流れを直接人間の目で観察することは、大変基礎的ですが、諸現象の物理的な把握を容易にするだけでなく、現象の理解を助けるのにとても優れた方法です。 特に高温融体(液体の金属、塩、酸化物など)の場合、内部で何が起こっているか本当にわからないことが多いです。

 例えば、高温で溶融した塩に電圧をかけると、水と同じように電気分解が起こります(よく知られている溶融塩電解です)。電流の値を観測することでどのくらいの量が反応したかがわかります。でも、それだけでは電極の周りで何が起こっているのか実は十分に理解することができません。

 その一例を示します。高温で液体の塩化リチウム(LiCl)を電気分解すると塩素とリチウムに分解されます 安田幸司先生が講習会で大変詳しくご説明いただいた内容ですが、下の写真はリチウムが発生する陰極側をカメラで撮影したものです。(ちなみに陽極側では塩素ガスが発生しています)

 この実験は約450℃の透明な溶融塩(塩化リチウムは塩化カリウムで薄めて融点を下げています)の中で行ったので、リチウムという金属は融点180℃の美しい光沢をもつ液体になります。しかし、よくみると電極周りには青い霧、そして沖合いの方は灰色の霧が湧き上がって、そして幽霊のように消えていくのでした。溶融塩はリチウムの溶解度を持つので、溶けるというのは当たり前ですが、この霧自体の正体は未だによくわかっていない…。何しろ文字通り霧のように消えていくのですから、捉えようがありませんし、すくい上げても一瞬で酸化してしまいます。1895年、ローレンツが初めて発見したこの霧の正体は、1世紀以上もなお議論され続けるミステリーです。

 この金属霧はきわめて強力な還元剤で、ほぼあらゆる酸化物を還元します。二酸化炭素でさえも還元してアモルファスカーボンをつくることがわかっています。

 溶融塩中の金属霧は水と油(エマルジョン)のように考えることができます。つまり濁っている状態のことです。水と油のような交じり合わない液体は、液滴が分散しても界面張力が約50mN/mと大きいため、合体することで界面の表面積を小さくするほうが安定で、最終的に2相分離します。つまり2液相間の界面張力が低いほうが、微粒子として安定です。

 液体リチウムはきわめて酸素とよく反応するため、溶融塩中にある酸化物イオンと速い速度で結びつき酸化リチウムとなって、リチウム表面に生成します。液体リチウムと塩の界面に酸素が配位すると、界面張力の著しい低下が生じます。この界面張力の低下は、微視的に見れば不均一なので、局所的な差が界面の振動と拡張を引き起こしてリチウムの微粒子が形成されます。この微粒子に酸化物がイオン化して配位することで安定なコロイドが形成する、と考えられ、これが霧の正体と考えられるのです。ただしこれはコロイド生成の立場からの一説で、議論の余地があります。

 単純と思われる現象の中にも実は複雑なメカニズムが隠されていることはたくさんあります。とくに界面の流れはその代表格だと思います。わかっているようでわかっていない。私たちは金属霧の発生と溶解をローレンツの時代から100年経って進化した機材を利用してつぶさに観察し、高速なコンピュータで丹念に解析してあげることで、成果を少しずつ出しています。一歩ずつでも些細なことでも新しい発見を、そして応用につなげていけたらと思っています。

2 件のコメント:

  1. 文化系の小生でも、なんとなくわかる気になる
    説明を頂きありがとうございます。

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  2. 目で見てこそ、発見や興味は湧いてきますよね。
    最近、目視観察や顕微鏡観察を行わない人が増えてきて、どうしてるんだろうと思います。

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